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偉かった「勝一」の修やん♪天才バカボンに顧客乾杯

ふる里を「楽しい笑いのまちに」と心血を注いだ和歌山県橋本市隅田町中島の割烹「勝一(かついち)」の亭主・中西修(なかにし・おさむ)さんが今年1月8日朝、心筋梗塞のため亡くなった。愛称・修(おさ)やん享年77歳で、今は同店カウンター席の一隅に中西さんそっくりの「天才バカボン」の縫いぐるみが飾られ、多くの顧客、友人知人が、清酒やビールを供えて、一緒に「思い出時間」を過ごしている。中西さんの長男で経営者の重友(しげとも)さん(46)は「父は何をするにも、とことん愛情を注いでいました。私も父のやさしさを受け継ぎます」と誓い、にっこり「天才バカボン」の縫いぐるみを抱きしめている。
中西さんは、昭和17年(1942)6月2日、地元農家の出身。若い頃、和歌山県那智勝浦町の観光ホテル・厨房(ちゅうぼう)などで料理の修業を積んだうえ、昭和48年(1973)10月、ふる里に帰り、割烹「勝一」をオープン。魚や野菜などの食材に目が利き、包丁さばきも並外れだつたので、たちまち店は大繁盛し、今では橋本・伊都地方の押しも押されもせぬ有名店である。
それよりも中西さんのすごさは本職以外にある。
その一つは、橋本市を類(たぐい)まれなる「地方寄席のまち」に盛り上げたこと。平成8年(1996)に店の顧客で元プロの落語家のすずめ家ちゅん助さんの発案を受けて、地元の集会所などで「勝一寄席」を始め、のちに「勝一わらべ寄席」、さらに「隅田門前寄席」と改名して、これまでに計82回もの公演を重ね、橋本市民会館では、人間国宝・桂米朝さんも登場するなど、文字通り「笑いのまち」を実現した。
さらに、このふる里は、鎌倉時代の放生会(ほうじょうえ)を起源とする隅田八幡神社の「担ぎ屋台(かつぎだんじり)」が名高い。その秋祭りを沢山の人々に体験してもらい、次世代に伝承しなければならないと、平成9年(1997)には、地元「だんじり振興会」会長として、宝くじ補助金を活用、担ぎ屋台を製作・購入した。地元の子供たちには、太鼓叩きや飾り付けなど、秋祭りの準備を経験させ、すべての人々に威勢よく担がせてきた。
平成16年(2004)3月には、空き室になっていた近くの元・隅田村役場(木造2階建て)を活用して、「門前(もんまえ)歴史交流館」を開館。その1階には「喫茶・図書室」を設け、書棚には小説やマンガ、郷土史誌など2300冊を並べ、近くの「真土万葉の里」や「恋野あじさいの里」から帰りの観光客らにコーヒーを無償提供。
さらに隣室には「門前歴史道具館」を開設。自ら収集した昔の農機具、調理器具、大工道具、左官道具など約300点を展示。地元の小学生らに「昔の暮らし」を体感させ、観覧してもらってきた。
このほか、市内各地区の公民館では、一般市民を対象にボランティア・料理講習に出向き、小学校では子供たちに寿司作りのコツを伝授、料理の神髄を「愛情」と教えた。
また「橋本チンドン笑会」設立発起人となり、市内各地のイベント会場では、会員のちんどん隊が、ひょうきんに練り歩き、祭典を盛り立ててきた。
このような活躍ぶりを和歌山県や橋本市が評価し、中西さんには県知事賞、橋本市文化奨励賞が授与されている。
注目の中西さんそっくりの「天才バカボン」(赤塚不二夫さんとフジオ・プロのギャグ漫画)の縫いぐるみは、平成20年(2008)頃、中西さんの友人の大西洋二(おおにし・ようじ)さんが手作りして寄贈。
中西さんは、余りにも自分に似ているので、さらに自分が大好きな手作りの豆絞りの鉢巻きを、天才バカボンの頭に巻いて店内に展示した。自分が店で酒を飲み、ほろ酔い加減になると、天才バカボンを赤ちゃんのように背中に負んぶして、友人知人の遊ぶスナックに出向き、桁(けた)外れの笑いを振りまいてきた。
中西さん亡きあと、重友さんが天才バカボンを店内のカウンター席に置いたところ、とくに父と親しかった顧客らは「おい、修やん」といい、酒をついだ杯、ビールをついだジョッキを供えて、父を偲んでくれている。
父のあと継ぎは重友さん。二男の康文(やすふみ)さん(41)は、同市小原田の国道371号沿いで食事処「笑食(わらべ)」を経営。兄弟は、客の嗜好(しこう)をつかみ、客の好みに忠実に従い、料理づくりに打ち込んだ父の姿が、心に刻み込まれているという。
今は、元・隅田村役場を活用した「門前(もんまえ)歴史交流館」も、橋本市の指示で建物を返還したため、「喫茶・図書室」や「門前歴史道具館」は、何とも悲しく、泡沫(うたかた)の夢と消えてしまったが、「地方寄席」や「担ぎ屋台」は中西さんの仲間が継承。「ボランティア料理講習」は、重友さんが代役を務めることになっている。
重友さんは「父は人々と仲良しになりたい、人々に笑いを提供したい、いつもしっかりつながっていたい、という人でした。私たち兄弟も、そんな父の気持ちを生かしたい」と話していた。
割烹「勝一」は毎月2日程度休み(不定期)。営業は午後5時~同11時頃。予約次第で昼間営業もOK。問い合わせは同店(電話=0736・32・8717)へ。
写真(上)は杯を供えられ酒飲み相手を務める中西さんそっくりの「天才バカボン」の縫いぐるみ。写真(中)は在りし日の中西修さん=2011年の「勝一わらべ寄席」で知り合いの子供から花束を贈られ胸を熱くする中西さん。写真(下)は「天才バカボン」を抱きしめる長男・重友さん=割烹「勝一」入口わきで。


更新日:2018年2月6日 火曜日 00:00

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