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連載「橋本を彫る~巽好彦の世界~」その⑫
《清水の町並み》
高野街道は紀の川を渡り、三軒茶屋から南へ、清水の東のはずれに西行堂、ゆるやかな坂道を登れば、そこから清水の長い町並みが続く。大庄屋の菅野家、千本格子のはまる家、虫篭窓の塗り込み壁の家と、かつて高野詣りの人達が観て通ったであろう古い民家が、数多く見られる。鎌不動のお堂を過ぎ、その先で町並みは終わる。何かしら心安らぐ雰囲気を漂わせるこの町並みは、橋本にはなくてはならぬ風景の一つ。
《東家の妙楽寺》
東家は愛宕山下に建つ妙楽寺。創建は古く平安の時代とか。橋本に住みながら、その存在は忘れ去られ、知る人ぞ知る寺。今に残る鐘楼門は、この地方では珍しい建造物。栄華の花が咲いた時代もあったろうに、時の流れの彼方に押しやられていて、寂しさを実感する。せめて後世に伝えることが、今に生きる者の、つとめではなかろうか。
《兵庫の大寺さん》
兵庫の利生護国寺は、たった五十年前までは、田んぼの真ん中にぽつんとあって、大和街道から真っ直ぐに参道がのび、山門を入ると太閤さんの駒つなぎの言い伝えのある松が生い茂っていた。今では国道が山門をかすめ、昔日のひなびた雰囲気はないが、改修された本堂の美しさは橋本の宝である。かつて栄華を極めた寺勢の華やかさはなくとも、隅田党の勇士の墓石が、本堂裏に名残をとどめている。
(木板画・文=日本板画院同人・巽好彦さん)
写真(上)は清水の町並み。写真(中)は東家の妙楽寺。写真(下)は兵庫の大寺さん=利生護国寺。
(おわり)
更新日:2013年1月12日 土曜日 23:04