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連載「橋本を彫る~巽好彦の世界~」その⑪

《紀州紀の川橋本あたり》
野口雨情作詞の「橋本小唄」に唄われる紀の川と橋本は、今の時代に忘れられがちな、情緒あふれる風景が唄い込まれていて、故郷忘難しの想いがする。向副の川岸から眺めると、対岸の岸辺にたちならぶ橋本の町並みは、紀の川とともに四季折々の顔を見せる。朝霧の中で、川幅いっぱいに増水し、変化に富んだ風景は、川と一緒に生活を営み続けてきた人々の心に、いつまでも宿している。
《名こそゆかしき妻の浦》
南海電車が橋本駅を出て、間もなく紀の川を渡る。一度に広がる川と山と橋本の街が目に入る。鉄橋を渡る電車の響き、眼下の水面に、烏帽子岩と畳岩とが対にして影を落とす。清流紀の川の名は、遠くに去れど、この風情を残す妻の浦は、橋本の名所の一景。この川の流れの中、真夏の太陽の下で過ごした、少年の日の川遊びの醍醐味は、齢(よわい)を重ねるにつれ、終生忘れることのできない、私の宝物である。
《昭和という時代》
ここ橋本にも昭和20年代には、まだ数多くの藁葺(わらぶき)屋根が見られた。経済発展のお陰で、その姿も次々と消え、今では残り少なくなった文化財的存在である。庭先で着物を着て遊ぶ子どもの姿。一家のほほえましい風景は、遠い遠い昔のように思える。物と引き換えに失くした人の心。平成の時代になり、改めて昭和という時代の思いがつのる。
(木板画・文=日本板画院同人・巽好彦さん)
写真(上)は紀州紀の川橋本あたり。写真(中)は名さえゆかしき妻の浦。写真(下)は昭和という時代。

更新日:2013年1月11日 金曜日 13:58

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