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連載「橋本を彫る~巽好彦の世界~」その⑨
《紀の川の夕照》
紀の川の流れの彼方、遠く雨引山のすそに沈む秋の夕日の見事さは、橋本の四季折々の風景の中で、特筆される美しさの一つ。刻々と西の空を茜色に染めかえ、沈み行く太陽に、四季を通じて、それぞれの見る人の心をとらえ、明日への望みを与えてくれる。秋の夕日の美しさは、そのバックの山河と橋本橋を舞台にした、太陽が演じてくれる大自然のドラマである。
《隅田八幡さんの菖蒲》
隅田の八幡さんは、紀北では歴史の古いお宮さん。所蔵する国宝・人物画像鏡は、日本史の教科書に登場する学術上で重要な鏡。五月、八幡さんの社前いっぱいに、菖蒲(しょうぶ)が見事に咲き誇る。宮司さんの奥さんが、一鉢一鉢、丹精込めて手入れされた自慢の花。素人が見れば、皆同じに見える菖蒲であるが、一鉢ごとに品種が異なり、咲き競う。花の命は短かけれど、その美しさは人の心に永くとどまる。
《煙出しのある家》
橋本の民家の中で、戦前に建てられたものに限り、大屋根の上に、小さな煙出しの小屋根をもった民家が見られる。台所の竈(かまど)の排煙用に作られたものであるが、建物の姿としては、独特のスタイルを形作っている。近代化の進んだ台所からは、煙というものすらなくなった今日、その煙出しのもつ民家の存在は、文化財的な意味を持つとともに、懐かしさすら覚えるのである。
(木板画・文=日本板画院同人・巽好彦さん)
写真(上)は紀ノ川の夕照。写真(中)は隅田八幡さんの菖蒲。煙出しのある家。
更新日:2013年1月9日 水曜日 15:52