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橋本駅にベルが鳴り響く…ホームには打ち水
南海高野線アーカイブス11回目は、和歌山県橋本市の南海橋本駅。この駅から大阪方面に通う通学通勤客らが、どっと乗り込む。1960年代、ラッシュアワーというのに、電車はわずか4両編成。次の御幸辻駅では、早くもぎゅうぎゅう詰めになった。橋本市勢要覧1965年版によると、63年中の南海橋本駅の乗客(乗降ではない)数は、128万5794人という数字が出ている。ちなみに2009年の統計を同駅に尋ねると、320万人を超えるという。
今回、主に紹介するのは、この駅のホームにあった発車のベル。撮影は96年6月26日(写真上)。電車の発車時間が近づくと、ホームのベルがけたたましく鳴り響く。ベルが鳴り終わると、車掌の笛の合図で、電車がゆっくりとホームを滑り出す。こんな光景が、確か1997年ごろまで見られた。関係者の話では、ベルは戦後間もなく取り付けられ、50年以上も働いてきたという。
また、駅ベルには、あまり知られていない秘話も。1996年(平成8)、当時の環境庁(現・環境省)が選定した「日本の音風景100選」の候補に、駅ベルと、巨石の穴から紀ノ川の流れる音が聞こえるという橋本市杉尾の不動山の2つを、市役所で検討したことがある。ベルは文化遺産としての価値の高いものだった。
同駅では、暑さをやわらげるために、ホームに打ち水をしていた(写真中・1978年7月撮影)。引込み線には、ヨーロッパ調と評され、優雅な外観と内装デザインを誇った2代目特急こうや号が、人目を引いていた(1971年9月撮影)。橋本駅は鉄道の魅力があふれている…が実感。次回は同駅の跨線橋(こせんきょう)に触れよう。
(フォトライター 北森久雄)