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電車、瀬間滝を走る~ゆっくり、また速く…
今回は南海高野線アーカイブス9回目。和歌山県橋本市のJR南海橋本駅に近い瀬間滝。国道371号になる前は、国道170号線といっていた。紀見峠方面から下ってきても、橋本から上っていっても、瀬間滝に差し掛かると、大きな岩壁が迫り、急に狭くなったように感じられる。このあたりのレール、国道、橋本川は川の字形になって、橋本川はちょっとした渓谷美を成している。この渓谷に小さな小さな滝があって、瀬間滝の名前の起こりとされている。昔は山深い地形になっていたのだろう。そうそうここに豆腐とあげを作っている1軒の店があったのを記憶している。
鉄道は難工事の末、1915年(大正4)に、橋本まで開通。カーブが多く、電車は時速40キロほどの、ゆっくりしたスピードで走るが、瀬間滝の急カーブに差し掛かると、さらにスピードを落とす。しかし、ダイヤが予定よりも遅れたとき、時間を取り戻すのに、ときたまスピードを緩めずに、カーブを走り抜けることもあった。私なんか、脱線しないかと、はらはらした覚えがある。
さて、御幸辻~橋本間の複線工事が始まったのは1986年(昭和61)。そして長さ196メートルの瀬間滝トンネルが完成したのが92年(平成4)。役割を終え、廃線になった瀬間滝のレールが撤去されて、国道の幅が広げられた。現在、川幅を広げる工事が急ピッチで進められている。車窓から眺めることができた岩肌にくっつくように咲く美しいヤマフジも、岩とともに消えてしまった。もう、昔の瀬間滝の面影はどこにもない。
写真(上)は1957年5月、見かけは新造車でも、旧型車両の機器を再利用して走る電車。写真(中)は、1991年4月、急カーブを走る特急「こうや」の回送車。写真(下)は1992年5月、急カーブにさしかかるズームカー。 (フォトライター 北森久雄)