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幻の「紀伊西国三十三所観音巡礼」…復活へ写真集
和歌山県橋本・九度山の両市町で、少なくとも太平洋戦争末期まで「紀伊西国三十三所観音巡礼」が行われていたことを示す〝紀伊西国霊場会〟のチラシが、同市東家区の真言律宗・妙楽寺(岩西彰真住職)で見つかり、森下功区長ら区民3人が三十三か寺をカメラ片手に訪ねて歩き、写真集を制作した。森下区長は「観音巡礼が途絶えた時代は不明ですが、郷土の素晴らしい〝観音巡礼の旅〟を再現して、地元はもちろん、都会の人たちの心の癒しにつながれば」と、復活に向けて働いている。
発見されたのは、「紀伊西国霊場会」発行の「紀伊西国」という題の1枚のチラシ。中身には「此の度 橋本、紀見、学文路、九度山、高野口、応其、山田の七ケ村の寺院を以て紀伊西国を組織しました。来る四月十五日(雨天順延)菖蒲谷の普賢寺に於いて 札所(ふだしょ)寺院住職皆参にて 御山開大法会(おやまびらきだいほうえ)を修行し 特に此の際 武運長久(ぶうんちょうきゅう)と国威発揚(こくいはつよう)の祈願をいたしますので 皆様お誘い合せ御参詣になり 我が皇軍将兵の為め 心からなる祈りを捧げて下さい」と旧字体で印刷。
◎尚十六日から三日間三十三所御本尊一斉に御開帳します◎御巡拝は二日かかります 時節柄特に武運長久を祈って下さい◎御納経を取られる方は紀伊西国巡拝会員に加入して下さいい 受付各札所 会費は一円です◇四月十五日より五月十五日迄の間に御巡拝のこと ▲集印帳進呈▲御納経無料▲各札所御詠歌添付 と印刷されている。
妙楽寺・本堂は、昨年夏の台風・豪雨で屋根が崩落、山門も崩落寸前のため、東家区としても「貴重な郷土の文化財をどう守るか」が課題になり、8月上旬、岩西住職からの依頼で、森下区長が同寺所蔵の資料を調べていたところ、この「紀伊西国」のチラシが見つかった。さらに調査を進めたところ、紀伊西国三十三所の寺院名、所在地が明らかになり、森下区長は妙楽寺・総務委員で写真家の中本義則さん、青木永造さんの2人とともに、全寺院を確認し、写真撮影してきた。
完成した写真集はA4判36ページで、冒頭に三十三か寺の名前、昔の略図、御朱印を印刷。次に最近の地図上に三十三か寺の場所、最終面には巡拝順に寺院名、所在地、住職の有無などを記した。中身のほとんどは、寺院の山門や本堂、内部の仏像などのカラー写真で、1寺1ページを使い、写真4~6枚で飾って、ひと目で各寺院の雰囲気がわかるように編集した。
森下区長らは、とりあえず、橋本市教育委員会、橋本市商工観光課、橋本市観光協会などに、手作り製本した写真集を配布中で、先ず、紀伊西国三十三所観音巡礼の歴史を知ってもらうことからスタートした。
中本さんは「調査した三十三か寺のうち、無住寺が9か寺あり、うち26番札所・妙見寺(高野口)の建物は、今は跡形もなく、地蔵尊が数十体残されています」などと、変貌しつつある寺院の実情を説明。
森下区長は「妙楽寺の文化財保護はもちろん、今回わかった〝紀伊西国三十三所観音巡礼〟も、郷土文化の伝承が重要と考えます。この写真集を行政や各寺院の方々にご覧いただき、巡礼復活について、ご検討をお願いするつもりです」と話した。
このことについて、橋本市観光協会の畑野富雄会長(橋本商工会議所会頭)は「貴重な歴史を発見、よく調査してくれました」と感謝し、「関係者と十分相談し、観音巡礼の復活を考えたい」と、前向きに話した。
写真(上)は手作り制作した「紀伊西国三十三所観音巡礼」の写真集と森下区長(左)中本さん(右)。写真(中、下)は写真集の内容の一部。