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匿名で〝戦争の本〟66冊届く~〝戦争文庫〟来年も
和歌山県橋本市のJR南海橋本駅にある「ゆかいな図書館」で8月に開かれた、太平洋戦争に関する図書を集めた「戦争文庫」で、本棚に置いた200冊のうち、107冊が返却されていないことがわかったが、9月6日、同図書館世話人の坂口繁昭さん(83)方に、「図書が減ったようですので、これをぜひ活用して下さい」との手紙つきで、戦争関係の図書66冊が、匿名で郵送されてきた。
阪口さんは「こんなにうれしいことはない。次回は戦後70年にあたる4年後に〝戦争文庫〟の開催を予定していましたが、この善意の方に心打たれ、次回は来年8月に開くことに決心しました」と喜んでいる。
「ゆかいな図書館」は、小説や詩などの文庫本、単行本など約1500冊を並べる。あくまでも読者の良識を信じ、図書の持ち帰り、返却を自由にしている。このため、返却されない分については、全国から届けられる〝寄贈本〟で補充している。
阪口さんは、先の大戦で満蒙開拓義勇少年隊に入隊。シベリアに抑留され、九死一生を得て帰国した戦争体験者。全国から寄せられた本の中から、戦争に関する図書だけを選別し、終戦記念日(8月15日)のある今年8月中、戦争文庫を開いた。ところが閉幕後、整理すると本棚の200冊のうち、残っていたのは、わずか93冊だった。
阪口さんは「返却されないのは、父母や子供を戦争で亡くしたか、自分が戦場で戦ったか、その本に特別な思いを持っておられ、仏壇にでもかざっているのかも知れません。貴重な宝として保管してくれるのなら、それで結構です。もしも、そうでなければ、4年後に戦後70年〝戦争文庫〟を開きたいので、返却をお願いします」と訴えていた。
今回、郵送で配達された段ボール箱の中には、「昭和という国家」(司馬遼太郎著)、「ぼくらの先輩は戦争に行った」(井ひさし監修)、「昭和とは何だったのか」(保坂正康著)、「きけわだつみのこえ~日本戦没学生の手記」(日本学生戦没記念会編)、「20世紀どんな時代だったか~戦争編~日本の戦争」(読売新聞社編)などがびっしり詰まっていた。
その消印によると、大阪府池田市あたりから、9月5日に発送されたものらしい。手紙には「戦争展終了後に本の数が減っていたことについては残念でなりません。もしよろしければ、今回、送らせて頂いた本を活用下さい。今後もお体に気をつけてご活躍下さい」とボールペンで丁寧に書かれていた。
阪口さんは「とてもありがたい。この善意を4年後まで置く訳にはいかない。匿名のお方の寄贈図書や、お手紙の文面からして、学徒動員か何かで、つらい戦争を体験された方だと思います。このご厚意は決して無駄にはいたしません」と語った。