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魂宿る能狂言面20面〜後藤光基さん遺作展

和歌山県橋本市の市民グループ「橋本狂言会」の元会長で、能面作りでも活躍した歯科医師の故・後藤光基(ごとう・てるもと)さんを偲ぶ「後藤光基能面遺作展」が、6月19日、橋本市東家の橋本市教育文化会館4階で始まった。後藤さんの妻で書家の加寿恵(かずえ)さん(72)は「素人の作品ですが、能面には夫の魂が宿っているようです。700年の能楽の伝統を感じてもらえれば」と話した。23日(日)まで。入場無料。
会場には女性の情念を表した「般若(はんにゃ)」、成熟した女性の「増女(ぞうおんな)」、目の見えない少年の「弱法師(よろぼし)」など、能面・狂言面計20作品を掲げ、卓上には、後藤さんが使った彫刻刀や鉋(かんな)などの〝面打ち道具〟や、木から面が生まれる過程の荒削りの4面を展示。小型スクリーンでは、在りし日の後藤さんの活動ぶりを、投影紹介している。
後藤さんは昭和11年(1936)7月27日、大阪市に生まれ、大阪歯科大学卒業後、父の「後藤歯科医院」を跡継ぎ。平成3年(1991)1月、能面師・石倉耕春・林桃春氏に師事し、以来、自宅で能面打ちを続けてきた。
平成8年(1996)4月には「橋本狂言を親しむ会」を設立するとともに、狂言師・安東伸元氏に師事し、以来、自らも「紀ノ川市民狂言」(現・橋本市民狂言)に出演。市内柱本の葛城神社境内での薪狂言や「こども狂言教室」を開催するなど、古典芸能の普及継承に尽くしてきた。
この間、橋本地区公民館長や、橋本市教育委員長などを歴任し、橋本市教育功労賞や教育地方行政功労者文部科学大臣表彰を受賞。平成24年(2012)12月5日、76歳で死去した。
この日、会場には、能狂言ファンや後藤さんと親交のあった人、教育文化関係者ら大勢が訪れ、じっくりと拝観。迫力のある表情や情念のこもる表情など、幽玄の世界を感じさせる能面の素晴らしさに感銘を受けていた。
橋本狂言会のメンバーの一人、前田直哉さん(71)は「すべて丹精込めた作品ですが、この中で〝武悪(ぶあく)〟と〝乙(おと)〟の狂言面は、ぜひ、狂言会で使わせていただきたいと思っています」と話した。
加寿恵さんは写真集「面打ち 後藤光基」を出版し、自筆で次のような謝辞を添えている。
薪燃えて静の顔を照しけり 子規
夫 光基が能面の神秘に魅せられたのは
薪能を観てからであったと記憶しております
幸い友人の中に能面師に師事している方が
ゐて「絶対にやめない」という条件つきで紹介してもらいました
一彫り一彫り心を込めて打ち上げた面には彼の魂が宿っているように思えます
素人の作品ではございますが古面を忠実に写し取ったこれらの面から 七百年受け継がれてきた能楽の伝統を感じていただければ嬉しく思います
最後に写真撮影していただいた大谷憲裕氏に心より厚く御礼申し上げます
平成二十五年六月     後藤加寿恵
なお、同遺作展の開館時間は、午前9時半〜午後5時(最終日は午後4時)。
写真(上)は後藤光基さんの遺作展で飾られた能面の数々。写真(中)は「作品には夫の魂が宿っているようで」と語る妻・加寿恵さん。写真(下)は遺作の一つ、狂言面「武悪」。


更新日:2013年6月19日 水曜日 14:41

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