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橋本駅に「生け花」60年~嵯峨御流・紀和司所
華道の嵯峨御流・紀和司所(岩上加津甫司所長)の人たちが、約60年前から、和歌山県橋本市古佐田のJR橋本駅の駅舎で、ボランティアで生け花を飾り、乗降客の心を和ませている。その活動は、今ではJR和歌山線・笠田駅や南海高野線・林間田園都市駅などにも広がり、駅舎の明るいムードづくりに尽くしている。
嵯峨御流・紀和司所に所属するのは、和歌山、大阪、奈良3府県の男性1人を含む女性たち約80人。JR橋本駅では現在、改札口・切符販売所前の一角のガラスケースの中に、春は桜、菜の花、山吹、夏は花菖蒲、向日葵(ひまわり)、撫子(なでしこ)、秋は鶏頭(けいとう)、桔梗(ききょう)、萩(はぎ)、冬は水仙、葉牡丹、蝋梅(ろうばい)など、四季折々の花を生け、その担当者の氏名札を添えている。林間田園都市駅では、同駅が開業した1981年から、同じように駅舎の一隅に花を生けている。
嵯峨御流・紀和司所の話では、所属する華道家やその弟子約50人が橋本駅、約35人が林間田園都市駅を交代で担当。花は各自で購入したり、自宅庭から調達したりして、駅舎まで運び、ハサミなどを使って、「生花(せいか)」「盛花(もりばな)」「瓶花(へいか)」など、様々なすがたに仕上げている。
花の命は、夏場は生けてから約3日間、冬場は約5日間で、美しさの峠を越える。そこで、それぞれ仕事、家事の合間を縫って、担当者が駅に出向き、生け替えている。
7月21日午後、同司所所属の加隈徳甫さん(権法印)は、岩上司所長から庭の南天の枝葉を譲り受け、市販の海芋(かいう)の花とともに、橋本駅に持参。南天のムダな枝葉を取り除き、花の背丈を合わせながら、慣れた手つきで、すっきりと形を整えた。
乗降客の中には、さっそく生け花の前で立ち止まり、じっと見入る人もいた。また、流派を超えて、華道を学ぶ人たちが、わざわざ駅まで生け花を見に来て、切磋琢磨する姿もあるという。
紀和司所は「ふだんは華道のために、植物を使わせてもらっています。それだけに植えることもしなければ」と、高野山(和歌山県高野町)に登り、植樹活動をボランティアで実践。一方、東日本大震災の被災地には、犠牲者の冥福と復興を祈り、義援金を募集、被災地に届けている。
加隈さんは「乗降客の中には、生け花を見て、自分も生けたくなり、花屋さんで、同じ花を求める人もいるので、とてもうれしいです」とにっこり。岩上司所長も「皆さん、仕事で疲れているのに、生け花を見て、ほっとしてくれると、私たちもやりがいがあり、励みになります」と喜び、「華道を学ぶ人たちには、ここが作品発表、試練の場でもあります。ここで生け花を見て、華道を学ぶ人たちも生まれます」と話した。