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五木寛之さんも称賛…「ゆかいな図書館」15周年
作家の五木寛之さんが、かつて新聞紙上で称賛した和歌山県橋本市のJR・橋本駅にある「ゆかいな図書館」が満15周年になり、世話人会代表の阪口繁昭さん(85)は10月7日、室内に感謝の張り紙をして、「今後とも宜(よろ)しくお願いします」と訴えた。
同図書館は、平成10年(1998)9月25日、1番ホーム待合室を改造して開設された。当時、待合室がごみ投棄や隠れ喫煙場として、青少年の非行の温床となっていたため、橋本市教委や市議会が「図書館に変更してほしい」と要望。JRは「駅前清掃など奉仕活動してくれている地元有志が管理・運営に当たるのなら」という条件付で承諾した。
阪口さんら駅前奉仕活動のメンバーは、さっそく世話人会を結成。図書館名は公募により、応募のあった市内の高校生485人、一般108人の中から、当時、橋本高校2年生の岩崎遥香さんが考えた「ゆかいな図書館」と決まった。
世話人会は、図書館の運営方針を「通勤・通学客が気楽に利用できるように」と決め▽貸出簿は作らず、図書の持ち出しは自由で、読み終えたら自主的に返却してもらう▽モラルとセルフをモットーとする受付のない図書館、とした。世話人会は、発足当時22人、現在は15人が管理・運営。各自、腕章を巻き、引き継ぎ日誌をつけ、寄贈本の補充・整理を担当している。
五木さんは平成12年4月の日刊ゲンダイ連載「流されゆく日々」の中で、ゆかいな図書館に立ち寄ったエッセーを紹介。「ホームの一部に本を並べた小部屋があって、椅子もおいてあり、乗客が自由に本棚から本をとり出して読むことができるのだ。係員とか、そういう人がまったくいないところがいい。聞けば、どの本でも勝手に借り出して、家に持ち帰って読んでかまわないことになっているらしい。(略)本好きな市民の善意を信じようという、小さな図書コーナーの発想がとてもいいと思った」などと称賛している。
ただ、一旦、持ち帰られた図書は、返却されない場合も多く、一時は図書不足で閉館かと心配された時もあったが、読売新聞などで「図書不足」と紹介されると、関東~九州方面からどっと図書が送られ、息を吹き返した。
この15年間の〝善意の寄贈本〟は、宅配便1050件、匿名送付(駅か阪口代表宅)195件で、計1245件17万5000冊(うち戦争文庫900冊)にのぼっている。
橋本駅は平成23年(2011)3月にバリアフリー化され、その大工事の際、図書館はこれまでの改札口内側から外側に移設され、現在に至っている。新しい図書館には、市民特製のダイヤ表を掲示、電車の発着アナウンス・放送設備が作られ、匿名寄贈のあった電波時計も掲げられた。
平成23年から毎年8月には、「戦争文庫」と名付け、本棚には戦争関係の図書を並べ、戦争の悲惨さや平和の尊さをアピールしてきた。また、JR和歌山線の駅弁・包装紙の展示やSL、お召列車、駅前の市街地開発前の古い街並みなどの写真展も開いてきた。
阪口さんは「この図書館は、図書を寄贈してくださる〝善意の方々〟や、歳末の清掃・図書整理を手伝ってくれる橋本高校の生徒会、手作り座布団を敷いてくれるお年寄り、寄贈本を取り次いでくれるJR職員など、多くの方々の協力で成り立っています。この図書館は誠に小さいですが、光り輝いていて、私たちはそういうことが一番うれしいです」と語った。
写真(上)はゆかいな図書館に感謝の張り紙をする阪口代表。写真(中)は沢山の寄贈本と阪口代表。写真(下)は人気の「ゆかいな図書館」。