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古美術品「市」半世紀…井上さん歴史・文化大切に
〝古美術品の競り市〟が、約半世紀も続いている文化拠点が、和歌山県橋本市高野口町伏原1,113にある。その名も古美術市場「紀州屋」と呼び、市主(いちぬし)は、橋本市議会議長の井上勝彦さん。競り市が立つ毎月「7」の付く日には、近畿各地から大勢の古美術ファンが殺到する人気ぶりで、井上さんは「どなた様でも見学は無料。競り市の風景を見て、文化・歴史の詰まった古美術品を愛してください」と呼びかけている。
「紀州屋」は鉄骨スレート葺き平屋(約500平方メートル)で、隣に35台前後の駐車場がある。古美術品が大好きだった井上さんの父・多一さんが、昭和39年(1964)4月、数十軒の古美術商の同意と、和歌山県公安委員会の認可を得て創業。昭和47年(1972)に井上さんが家業を引き継いだ。
和歌山県内では、多一さんの弟子2人が、かつらぎ町と岩出市で、それぞれ古美術市場を開いており、県内3市場のうち、いわば井上さんの古美術市場が最古参ということになる。
競り市は、毎週「7」の付く日の午後1時に開始。すでに紀州屋の屋内は、近畿一円の古美術商が持ち寄った絵画、書、陶芸、民芸、木工、道具、武具、古着などが山積している。
〝掘り出し物〟を求めて、参集するのは、近畿各地の古美術商はもちろん、弁護士や医師、元警察官、小中高校の教諭など、職業もさまざまな約50人にのぼる。
競り台に立つ井上さんは、例えば、額入りの絵画、書の掛け軸などを披露しながら「はい1000円」と切り出す。逸品の場合は、会場から「2000円」「10000円」「15000円」と威勢のいい声が掛る。ここが潮時と見た井上さんが「はい○×さんに落札」と告げ、「あんたは幸運」と笑顔を見せる。
1回分の市で、150〜200点の古美術品が取引されるが、いずれも値踏みされるので、取引総額は30万〜50万円と、至って少ない。
古美術商として利害を意識する人、掘り出し物があれば安価で…と考える人、単に古美術品を眺めるだけの人など、参加者はいろいろ。なかには「初めは軽い気持ちで見学にきたが、そのうち家に帰ってから〝あの品は落札すべきだった〟と後悔するようになった。今では、いいと信じる品は、上手に落としたい」と話す著名人もいた。
井上さんは「私たちの心にしみる歴史・文化の宝物は建物だけではありません。先人が丹精込めて創り上げ、それを人々が大切にし、今まで処分しないで、残されてきたものです。創業者の父・多一は一昨年、92歳で他界しましたが、私は〝日本の歴史・文化を大切にせよ〟という父の教えを受け継いで、古美術品ファンに尽力いたします」と話した。
写真(上)は楽しい古美術市場「紀州屋」の競り市風景。写真(中)は競りにかけられた天狗の古美術品。写真(下)は競り台に立つ井上さん。