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穂高岳山荘の今田さん講演「私は山で生きていく」
日本で3番目に高い北アルプス・奥穂高岳(標高約3000メートル)山頂付近の穂高岳山荘3代目主人・今田恵さん(26)による公開講座「私は山で生きていく」が、このほど和歌山県農業大学校(かつらぎ町中飯降)で開かれた。今田さんは、大自然の厳しさや、山荘運営に奮闘する心を話し、農業経営を目指す学生たちに、改めて自然相手の仕事の難しさ、自然との共生の大切さを示した。
農大生30人、社会人課程13人など計約50人が講堂で聴講。先ず、同大学の内田利久校長が「今田さんは、皆さん(学生)と変わらない、20歳代の山荘の経営者です。今田さんの講座は、将来、きっと皆さんの人生に役立つことと思います」と紹介した。
今田さんは、祖父が穂高岳山荘を創設し、父が築き上げた有限会社・穂高岳山荘を昨年2月に受け継ぎ、代表取締役に就任した。
冬場を除いて年間約250日間、十数人の従業員とともに、山荘運営に従事。多い日は約300人の登山客が宿泊する。近くで遭難事故が発生すると、従業員とともに救助活動に出動している。
この日、今田さんは、かつてテレビで放映された〝山荘生活の録画〟をスクリーンに投影。シーズンインには、山荘全体を覆うように氷結した雪を、スコップで取り除き、入り口に「穂高岳山荘」の看板を掲げる。危険な山岳の斜面で、雪氷を除去して「天命水」と呼ばれる水源地を掘り出すなど、山荘労働や山荘生活の光景を紹介。
そのうえで、今田さんは「自然は、でっかくて怖い。自然には、とても勝てない。登山とは自然の中に〝お邪魔する〟こと。山小屋は自然と共生するもの」と強調した。
また「祖父は穂高岳で、ごみを拾い集めたし、父は石をずらして、2本の登山道をつくりました」と、先代、先々代の苦労の一端を紹介。「父がこのような頑丈な山小屋にしてくれたので、私でも運営ができるのだと思う」と、安堵の表情を浮かべる一方、「山小屋では、建物や電気、水道などのメンテナンスが重要です。でも、それぞれの技術者には、ここまで登山、宿泊してもらう必要があり、大変なコスト高になります。結局、自分たちで補修しなければならないので、自ずと補修が出来るようになりました」と話した。
今後の山岳観光については、「ヨーロッパでは登山鉄道があり、高所から簡単に景色が楽しめるが、ここでは、歩いて登るし、自然のしっぺ返しもある。山小屋にどの程度の、人の手を加えていいものか、迷っています」と打ち明け、「これから日本の人口は減るので、スポーツやレジャー、山小屋の経営も大変になる」と推測。
「でも登山は、家族や友人とともに、一生楽しめる。水や食べ物はおいしいし、景色も素晴らしい。ぜひ、登山してほしい」と希望を述べ、「それにしても、人は何を求めて登山するのか、何を求めて山小屋に来られるのか。山小屋から、どう楽しさを提供すればいいのか…」と、熟慮中の胸中を語り、農大生らから大きな拍手を受けていた。
内田校長は「当校の職員が昨年、穂高岳山荘を受け継いだ今田さんの生き方を、テレビで見て感動しました。そこで、ぜひ、その生き方を話してもらおうと、お願いしました。たとえ仕事の分野は異っても、自然の中での仕事は同じ。本日の講座を将来に生かしてほしい」と話した。
写真(上、中)は和歌山県農業大学校で講演する穂高岳山荘の3代目主人・今田恵さん。写真(中)は今田さんを紹介する内田校長。