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がん克服〝腹話術〟ボランティア~多田さん79歳
肝臓がんを患いながら、それを見事克服し、〝腹話術ボランティア〟として、活躍している79歳の男性がいる。和歌山県橋本市隅田町河瀬に住む多田則一さんで、多田さんは「手術の後、ふたたび生かされた命、皆さんに幸せになってもらえたら本望です」と頑張っている。
多田さんは、もともと航海計器製造販の仕事をしてきた。若い頃から演歌が大好きで、NHKのど自慢大会で奈良代表として、近畿大会に出場するなど、アマチュア歌謡界の実力者だった。
1998年(平成10)に肝臓がんを手術。退院後、「ふたたび生かされた命。このうえは世の中のために立ちたい」と決意。翌年から和歌山市の腹話術協会で腹話術を習う一方、同年から腹話術ボランティアを始めた。
橋本・伊都地方の保育園や幼稚園、老人福祉施設などに出向き、人形を使って童謡や演歌を歌ったり、子供たちやお年寄りに喜ばれる物語を演じたり。スピーカーやアンプは自宅から車で運び、妻のカヨ子さん(77)が、音響効果役を務めた。「毎年約30か所を訪問してきた」と言うから、これまで約360回も、慰問公演など続けてきたことになる。
10月24日には、橋本市東家の市立橋本保育園で、同保育園と橋本幼稚園の園児計約70人に腹話術を披露した。橋本署・駅前交番の岩戸誠也所長の協力を得ながら、鳥の〝カナちゃん〟や、カラスの〝黒ちゃん〟など、かわいい縫いぐるみを使い、園児たちに交通ルールや、犯罪に巻き込まれない方法などを、わかりやすく、楽しく諭した。
多田さんが人形の口から「信号は赤でも渡っていい?」と言わせると、園児らは一斉に「渡ったらあかーん」と、大きな声で口をそろえ、人形が「知らないおじさんに、誘われたら、ついて行ってもいい?」と言うと、「あかん、絶対あかん、大声を出す」と元気よく答えた。
岩戸所長は、「とまる、みる、まつ」と書いたタスキを掛けた〝ドナルドラック〟や〝チョッパー〟の縫いぐるみを、地元有志からとしてプレゼントし、「きょう学んだことを守ってね」と語りかけ、同保育園の田宮明子園長は「子供たちは、きょう教わったことを心に刻んで、注意してくれると思います」と喜んでいた。
カヨ子さんは「私も2年前に大腿部を骨折しましたが、今はこの通り元気です。先日、橋本市産業文化会館での〝カラオケ大会〟に出場し、主人は竹山物語を歌い、私は黒髪を歌いながら踊りました。こんなに元気なのは、この活動のお陰でしょうか」と、にっこり笑う。重い荷物運びを手伝った孫の会社員・耕三さん(27)は「祖父母は生かされていることに感謝し、生き生きと活動しているので、それが何よりです」と、やさしい眼差しで話した。