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人間の尊厳を…♪水平社の思想・清原住職が切々と
部落解放運動に取り組む全国水平社の起草者・西光万吉(さいこう・まんきち)氏の弟の孫にあたる西光寺の清原隆宣(きよはら・りゅうせん)住職(奈良県御所市)による「人権講演会」が2月18日、和歌山県橋本市教育文化会館2階大ホールで開かれ、人間の尊厳を大切にするよう訴えた。
橋本市が主催し、一般市民はじめ行政、教育、企業関係者ら約230人が参集。橋本市市民生活部人権・男女共同推進室の櫻井誠(さくらい・まこと)室長が司会を務めた。
全国水平社は、大正11年(1922)3月に結成された戦後の部落解放同盟の前身。その創立に際し、西光(本名=清原)万吉氏が「人間の尊厳」を唱えた水平社宣言は、日本最初の人権宣言で、西光寺は住井(すみい)すゑの大河小説「橋のない川」 の舞台である。清原住職は大学卒業後、中学校教諭を経て父の寺を継ぎ、人権講演会で全国民に人類の平等を訴えている。
この日、清原住職は、自らの経歴を述べ、「各地域によって、それぞれ、違いはありますが、私たちの場合は」と前置きしたうえ、江戸時代の地元農家が、御上(おかみ)から、農地で死んだ牛馬の処理、つまり「清め役」を命じられたという史実を紹介。
牛馬の「死、産、血」の大切な清め役を「穢(けが)れ」と錯覚した人々が、その従事者を忌み嫌うようになったと解説。その上で、例えば「女性の生理、出産が汚(けがらわ)しいのか」「(聖山に登るなという)女人禁制が正しいのか」「人々のために働く人々がなぜいけないのか」と、誰でもわかる問題を提示した。
また、後輩で同和地区出身の男性教諭が女性教諭と恋愛のすえ、女性の親の反対で結婚できず自殺した悲劇や、サルが谷川に投石して、何の罪もないカニをいじめる西光万吉氏の「論文」、インターネットで好き放題な「差別発言」をまき散らす人々、かつては同じ税金を徴収しながらも、道路や下水道行政などを実施しなかった具体例を次々と紹介。
人間はどの地域に生まれようとか、どんな生物に生まれようとか考えることなく、気が付いたら、其処に人間として生まれていた事実を提示。何の罪もない人、そこに生まれた人々に対する、地域差別の間違い、重大な弊害について考えさせた。
さらに、1人の人間には2人の父母がいる。2人の父母には4人の父母がいる。そうして500年前まで遡(さんのぼ)ると、100万人以上もの父母がいることを解説。その場では直接語らなかったが、「人類すべて同類、万物すべて自然」であることを感じさせた。
また、冠婚葬祭の際、わが国では「大安」「友引」「仏滅」などの慣習があることを披露。それを無視しても罰を受けた人はいないと力説すると、一旦は理解した人までもが、必ず「ほいでもよ」と首をかしげる始末。
つまり、誰かがひとこと「あらぬ差別語」を吐くと、それを聞いた人は、さも昔から続いてきたかのように、同じ言葉をささやき、やがてその虚偽が真実の如く伝わること。その軽々しい言動が、いとも簡単に、被差別部落の人々を傷つけ、ついには死に追いやってきたという、底知れぬ悲しみを強調した。
清原住職は「このように人間の誤った物差しで、人を差別してはいけない」と断言。全国水平社運動は、あくまでも「人間を人間と思わない、哀れな人間を救うための運動であります」と結んで、会場から大きな賛同の拍手が起きていた。
櫻井室長は「私たち行政も、市民の皆様と協力して、差別のない社会づくりに取り組みます。皆さん、御所市に行かれたら、ぜひ西光寺や水平社博物館にお立ち寄りください」と挨拶して締めくくった。
写真(上・下)は人間の尊厳を大切にと訴える清原隆宣・西光寺住職。写真(中)は人権推進室提供の人権推進キャラクター「はしぼうハート」。