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ツバメの子、奇跡の巣立ち…スナックに記念写真
プロドラマー朝倉聖さんらのグループ「フラワーヒルズバンド」ボーカルとして活躍した和歌山県橋本市の大寳(おおたから)泰子さんは、7月16日夜、自分の経営する同市市脇のスナック「ナイス」店内に、可愛いツバメの子〝ピーちゃん〟の写真を飾った。この〝ピーちゃん〟は今夏、同店のツバメの巣から、路上に落ちたところを、たまたま通りがかった顧客にひろわれ、親ツバメが必死に育てて、無事巣立っていった人気もの。大寳さんは「うれしくて、うれしくて。当店の歴史の一コマを飾らせていただきました」と、にっこり話した。
ツバメのピーちゃんが、路上に落ちていたのは、7月5日の早朝。店の顧客でもある近所の男性が、スナック「ナイス」前を通りかかると、店の看板シート内側のツバメの巣から、ツバメの子が落ちて、ぐったりしていた。男性は、同店前に置かれたシュロの植木鉢の上に、自分の靴下をベッド代わりに敷いて、そこにツバメの子を寝かせて帰った。
同日夕刻、それとは知らずに、大寳さんが出勤。植木鉢のツバメの子を見てびっくり。店の客と一緒に、コップの水をストローで与えても、飲もうとしない。親ツバメがエサを運んでくる様子もない。家に連れて帰ったところで、手の施しようがない。どうしたらいいのか、悶々と、辛い気持ちで帰宅した。
ところが翌日、早めに出勤すると、親ツバメが周囲を旋回し、せっせと虫をくわえてきて、子ツバメに与えている。「ああ、よかった。これで大丈夫」と、胸をなでおろした。
やがて、大寳さんが、ツバメの子の頭や背中をなでてやると、「もっと」というふうに喜ぶ。近づくと「ピー、ピー」と応える。そこでツバメの子に「ピーちゃん」と命名し、顧客らとともに成長を祈った。
7月9日の夕刻には、ちょっとした〝異変行動〟が起きた。前日までは、植木鉢で、ただエサをもらうだけだったピーちゃんが、店の近辺の駐車場の上を、或いは低く、或いはぎこちなく、飛び回っている。親ツバメが近くで、「さあ、ここまで飛んで来なさい」と、檄(げき)をとばしているのだ。
ある時、ピーちゃんが、若いカップルの乗用車のボンネットにとまったため、大寳さんが、そのカップルに連絡すると、ピーちゃんは、女性が差し出した人さし指に、ちょこんと飛び移り、植木鉢までの約5メートルを運んでもらう。そのピーちゃんの人懐っこさには、みんな感服した様子だった。
さらに、ピーちゃんは10日から3日間、植木鉢には戻らず、親ツバメの叱咤激励(しったげきれい)を受けながら、同店周辺の空を、ひるがえっていた。12日深夜、大寳さんが表に出ると、隣のガソリンスタンドや街灯の明かりの中で、ピーちゃんが旋回。「こんなに飛べるようになったよ」と自慢するように、数回、目の前を滑空してくれた。その後、ピーちゃんの姿を見た人はなく、ついにピーちゃんは、元気に巣立っていったらしい。
大寳さんは「当店の看板シート内側には毎年、ツバメがやってきて、巣作りしますが、こんな出来事は初めてです」と言い、「夜はピーちゃんの無邪気な寝姿を見たし、親ツバメが低空飛行してきて、エサを与える愛情の深さも、よくわかりました」と感激。「植木鉢でのピーちゃんの姿は、携帯電話のカメラで撮影できたので、この写真は当店の思い出に展示します」と話した。
この朗報について、朝倉さんは「偶然、通りがかった人が、やさしかったこと、店の前に植木鉢があったこと、一旦、路上に落ちても、親ツバメが見捨てなかったことなど、とても〝運〟がよかったのだと思います」と締めくくり、ピーちゃんを見守った大寳さんを褒めていた。
同店は、国道24号の市脇交差点の北東側にあるスナックの老舗。
大寳さんは平成10年(1998)結成の「フラワーヒルズバンド」ボーカル。高野山・大聖院境内で毎夏開かれた「ジャズ・イン・高野山」や、中国・杭州での公演など各地で活躍する一方、オールディーズソングなど14曲を収録したCDも発売、人気を集めた。今はノドをいたわり、母・慶子さんの店を継いでいる。
写真(上)はスナック「ナイス」店内に飾られたツバメのピーちゃんの写真と大寳さん。写真(中)(下)は植木鉢の上で育つツバメのピーちゃん。