特集

初冬の銀杏、山茶花、榧の3老樹~堀越癪観音

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初冬とはいえ緑の葉に覆われた堀越癪観音の銀杏老樹
    初冬とはいえ緑の葉に覆われた堀越癪観音の銀杏老樹
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初冬とはいえ緑の葉に覆われた堀越癪観音の銀杏老樹
    いくつもの蕾を後にしたがえ裂いている山茶花の花
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復元した竈と向井住職(1月の初観音にはこの竈で炊いた味噌汁が振舞われる)
    復元した竈と向井住職(1月の初観音にはこの竈で炊いた味噌汁が振舞われる)

来てみれば、やはり、銀杏(いちょう)と山茶花(さざんか)と榧(かや)の、3本の老樹がどっしりと立っていた。和歌山県かつらぎ町堀越の「紀州堀越癪(しゃく)観音」の境内。銀杏は樹齢400~600年、山茶花は200年以上と推定され、銀杏は本堂の前、山茶花はその東側、榧は庫裏(くり)の前にある。
この地方は、日本一の串柿の産地で、山里のあちこちでは、串柿の〝玉すだれ〟を天日干し。すでに、暦(こよみ)の上では〝立冬〟も過ぎているが、この3本の老樹は、堂々たる風姿で、山茶花は花の盛り、銀杏と榧とは、いまだに緑の葉におおわれていた。
「ご住職、お久しぶりです。銀杏の葉は、まだ、色づいていませんね」と、庫裏の縁側に居られた向井聖順住職に声を掛けると、向井住職は、わざわざ境内へ降りてくれて、「今年は温かい日々が続いていますので…」と言いながら、銀杏を見上げる。
山茶花は満開だが、まだまだ蕾(つぼみ)が沢山あるので、当分の間、楽しむことはできそう。銀杏の木が黄色におおわれるのは、ここ半月か1か月先のことだろう。そう思いながら、向井住職に、それとなく〝見頃〟を尋ねたら、「いやあ、これだけは天候次第ですからねえ」と、相変わらず、にこやかに答えてくれた。
「ああ、そうそう。ちょっと…」と呟きながら、向井住職は、いったん庫裏に消える。庫裏の軒下の台には、この銀杏の葉のエキスを混ぜた〝イチョウ飴〟や、この榧の木からとった〝榧の実〟、地元の山でとれた〝平核無柿(ひらたねなしがき)〟などを置いて、「お土産に」として売っている。
戻ってきた向井住職は、果物ナイフと、数個の平核無柿を皿に乗せて、「さあ、どうぞ、食べてください」と言う。私が椅子に座って、皮をむき始めると、そのぎこちなさを見かねたのだろう、向井住職が私から果物ナイフを取り上げて、先ず、ヘタの部分をザックリとえぐり取る。そして、あっという間に皮をむき終え、8個ほどに切り分けてくれて、「さあ、どうぞ」と、爪楊枝をくれた。
「甘いですね」「そうでしょう」「もうすぐ富有柿ですね」「そうそう。これがまた、うまいですよ」と、穏やかな会話をさせていただく。ふと見ると、銀杏の根元に、真っ黒いのが1羽、真っ白いのが3羽、ニワトリが現れて、盛んに何かをついばんでいる。
私が、柿を頬張った口で、「かわいいものですねえ。真っ黒いのが雄で、真っ白いのが雌ですか」と尋ねると、「いやいや、全部、雄です。あれはチャボですよ」と、目を細める。そこへ4、5人の女性客がやってきて、その足音に追われるように、チャボは山茶花の散り染めた、ピンクの階段をのぼっていった。
私が、この堀越癪観音を始めて訪れたのは、もう20年も前のことである。私より20歳も年配の、俳句仲間が急逝し、それから暫くして、親しい俳人たちと、私が運転する車で吟行にやってきた。国道24号から一気に山上をめざすと、頂上付近で濃霧に巻かれた。
ヘッドライトの明かりで、ほんの目鼻先だけを確かめながら走る。やがて濃霧がとぎれると、あたりが林に囲まれた小さな盆地で、あちこちに畑があることがわかってきた。その景色は、いきなり霧に消えたり、ふわりと現れたりした。俳句仲間を亡くした後だけに、「ここは黄泉(よみ)の国ではないのか」と、背中にぞくっとしたものさえ、覚えたものだった。
かくて、この堀越癪観音に辿りついたときは、まだ生死の境界にあるような不思議な感覚で、その時に仰いだ銀杏の老樹は、注連縄(しめなわ)をつけ、隆々たる瘤(こぶ)をつくり、無数の緑の葉を装っていた。「ああ、ここの寺は、すごい寺だ」、と、それが第一印象だった。
「あんた、ちょっと来てごらん」。そういう向井住職の声で、あれから20数年後の、今の自分に戻ったが、あの銀杏は、やはり、あのときのまま、不動明王のように、突っ立っていた。
向井住職について行くと、庫裏の土間に大きな竈(かまど)がある。竈はやや「く」の字型に曲がっていて、黒光りしている。大きな釜が5つも収まっている。「この竈は、大昔からあったものを、5、6年前に復元したんです。表面はタイル張りですが、タイルの中身はレンガです。ね、いいでしょう」と胸を張る。
「はい、今は電気時代、下界には竈など、ありませんからねえ」と返すと、「1月17日は初観音大法会ですが、その際には、この竈で薪(たきぎ)を焚いて、味噌汁をつくり、皆さんに振る舞うんです。よかったら来て下さい」と、やさしく笑う。帰りがけには「いい年を向かえて下さい」と言って〝平成24年壬辰(みずのえたつ)の開運暦〟を手渡してくれた。
たまたま同寺にいた参拝・観光客の一人に、「ここの寺の感想を聞かせてください」と、お願いすると、上野山陽子さんと言う方が、和歌山県有田市千田から、車でやってきたという。私が驚いて、「ああ、あそこに地蔵寺というお寺があります。30年も前に俳句会が開かれていて、よく通ったものです」と言うと、上野山さんも驚いて、「そうでしたか。世間って狭いですね」と言い、「この堀越癪観音はとても有名ですが、とくに山の上にあって、自然環境が素敵ですね。心がとても落ちつきます」と話してくれた。
11月23日(水)には、ふもとの四郷小学校で「串柿まつり」が行われ、串柿つくりの実演や体験、歌謡・漫才ショーなどがある。
初冬の銀杏老樹の緑かな  (水津順風)


更新日:2011年11月14日 月曜日 22:37

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