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「高野山で仏性を…」中門再建・尾上さん「本」で語る
弘法大師・空海の高野山開創1200年記念大法会を記念して、高野山の壇上伽藍(だんじょうがらん)・中門を再建した堂宮大工(どうみやだいく)・尾上恵治(おのうえ・けいじ)さん著の「世界遺産マスターが語る高野山 自分の中の仏に出逢う山」が、新評論(東京)から出版された。高野山真言宗総本山・金剛峯寺の中西啓寶(なかにし・けいほう)管長・座主は「建物は外観からのみ見るのではなく、基礎から土台、骨格、仕上げ等々、さらにそのものを成立させた歴史と文化まで網羅するごとく、高野山についても彼独自の視点でその構造を見つめている。門前の小僧ならぬ、山内の堂宮大工が書き上げた本書、お勧めの一書」として推奨している。
尾上さんは昭和35年(1960)、和歌山県高野町高野山で生まれた。堂宮大工・一級建築士・一級土木施工管理技士、和歌山県文化財保護委員、金剛峯寺境内案内人。世界遺産マスター第2期生。
出版された「世界遺産マスターが語る高野山 自分の中の仏に出逢う山」は、四六並製、256ページ。表紙は御影堂や根本大塔の壇上伽藍の写真で装丁。「まえがき」で世界遺産マスター第1期生・小野田真弓(おのだ・まゆみ)さんら3人が「本著は世界遺産マスターの有志が企画・執筆・編集した」とし、「自然に育まれた日本人の精神を後世に伝えるとともに、文化的景観の保全と活用の一助となることを心より願っている」と記述している。
中身は第1章「高野のなりたち」、第2章「高野山への道」、第3章「待ち受ける伽藍」、第4章「高野山の歴史」、第5章「奥の院へ」で構成。
さらに目次で「空海が選んだ厳しい修行地」、「天野の丹生都比売神社」、「日本唯一の山内町」、「学侶、行人、聖――僧侶の階級と派閥」、「キリスト教の碑もある大墓石群」と案内。
例えば「町石道」の項では、中世において浄土思想が流布して以来、「高野山に一度でも徒歩でお参りすれば、果てしない過去からの罪も、道中ですべて消滅する」と民衆に信じられていたので、人々はこの道を単なる登山道とは考えず、祈りながら歩く信仰の道としてとらえてきた、と記している。
また、コラムで「丹生都比売神社と花盛祭」、「弘法井戸」、「高野山専修学院」、「高野山にスキー場?」と題し、例えば「味噌で守った御影堂」では「大火災の主な原因は落雷によるもので、いったん屋根が燃え上がると、檜皮(ひわだ)で葺かれていただけに類焼しやすかった」などと説明、「類焼を免れるために、建具や空気抜きの隙間に味噌を目塗りして、密閉するという方法もとられた」などと詳述している。
金剛峯寺の松長有慶(まつなが・ゆうけい)前管長・座主へのインタビュー=聞き手・小野田真弓さん=も紹介。松長管長・座主は、例えば単に「自然は大事です、自然と共存します」というだけじゃなくて、あそこの杉の木も、鳥も、モグラも、みんな自分と同じ命でつながっているのだから、いっしょに暮らしていきましょうやという「命のつながり」があるのです、と、真言密教の教えを簡潔明瞭に述べている。
尾上さんは「あとがき」で、高野山が世界遺産に登録され、国内外から観光客は増えたものの、大門~伽藍~奥の院のスケジュール・日帰り客が多く、一か所にとどまって自己の仏性を感得する過ごし方が難しくなっている、と説明。「そこで本書では、自分なりに学び経験してきた『神と仏』の関係、そして高野山がもつ『出家と在家』『聖と俗』『過去と未来』、さらに『生と死』さえもが両立する世界観の一端を紹介させていただくことにした」と述べ、「ぜひ、来山されて、ご自分の目と心でじっくりと体感していただき、ご自分の高野山、ご自分の仏性を見つめていただきたいと」と結んでいる。
尾上さんの妻・利香(りか)さんは、高野山をはじめ県内外で活躍中のソプラノ歌手で、「夫は学生生活と修行時代を除いて、半世紀を高野山で暮らし、高野山の歴史、文化を探求してきました。中門再建と本の執筆・出版が重なり、実に大変でしたが、参拝・観光客に読んでいただこうと、見事にまとめてくれました」と喜んでいる。
新評論は「中門再建のエピソードなど高野山の文化・歴史を読めば、参詣・観光の仕方が間違いなく変わる」「全国の書店で絶賛発売中」と紹介。価格は1冊2200円(税別)。新評論=〒169-0051 東京都新宿区西早稲3-16-28 (電話03・3202・7391)。
写真(上)は出版された「世界遺産マスターが語る 高野山 自分の中の仏に出逢う山」を紹介する尾上利香さん。写真(中)は完成した中門と再建した尾上恵治さん=自著本より。写真(下)は美しい装丁の「世界遺産マスターが語る 高野山 自分の中の仏に出逢う山」。