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素朴に〝野の送り火〟念仏~橋本市無形民俗文化財
「南無阿弥陀仏」の唱和の中、経木を燃やして先祖供養する、和歌山県橋本市野地区に伝わる「野の送り火」行事が、このほど、地元の金比羅橋たもとの山田川川原で営まれた。同市は昨秋、この「野の送り火」を貴重な民俗行事として、無形民俗文化財に指定。今回は指定後初めての行事とあって、同市教委はビデオや写真に撮影、記録保存した。
「野の送り火」は、8月14日午後11時ごろ、野地区の子どもを含む約60人が参加。地元の4ヵ所で、それぞれ鉦(かね)を叩く念仏講や、高張提灯(たかはりちょうちん)掲げる人、盆に祀られた経木や、新仏の棚などを手にした人々が列をつくる。
一行は、東西に通る旧伊勢(大和)街道の、4ヵ所の辻の各所から、金比羅橋に向って行進。複雑な節回しの「南無阿弥陀仏」の念仏が、今はテープで流れる中、一行が、闇に響き渡る鉦の音ともに歩き、やがて山田川の川原へ集合した。
ここで、経木や棚を積み上げて点火。新仏の家の人たちが〝火加減役〟となり、竹ざおでかき混ぜ、さらに「南無阿弥陀仏」の念仏、透き通るような鉦の音が流れると、炎は〝どんど〟のように盛んに燃え上がった。半円陣を成した人々は、皆、中央の炎を見つめ、死者の極楽往生を祈り、先祖を供養、感謝の心を捧げた。
市教委によると、平安時代末期、浄土信仰の広がりに伴い、大勢で唱和する「融通念仏」や、踊りながら唱和する「大念仏」が行われたが、「野の送り火」は、中世後半に「月の六斎日」に行われた「六斎念仏」が伝承されてきたという。
昔の「南無阿弥陀仏」の唱和は、非常に味わい深いが、その節回しがあまりにも難しいため、今では継承者がいなくなり、10数年前から、先人の念仏を録音したテープを流している。
市教委社会教育課の大岡康之学芸員は「お盆には、各家庭で仏様を迎え、供養し、お送りしますが、このように、地区ぐるみで〝野の送り火〟を行う姿には、ほんとうに感動しました。核家族化で、大切な行事が消えていく中、この民俗行事を守っておられる努力に感謝します。皆さんのまとまりは、ほんとうに素晴らしいと思います」と話した。
(写真は和歌山県橋本市教育委員会社会教育課提供)