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ひん死の杉~大手術で復活、丹生都比売神社
世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に登録されている和歌山県かつらぎ町の丹生都比売(にゅうつひめ)神社境内で、5年前、何者かに傷つけられ、枯死寸前だった杉の木が、地元の樹木医・浦嶋清さんの治療で見事復活した。ただ、青々と茂っていた杉は、今、幹の上部がばっさり切断され、わずかに枝葉を残すだけの、無残な姿となっている。丹生晃市宮司は、「このありのままの姿を見れば、精いっぱい生きる命の大切さ、傷つけることの悲しさが、よくわかります」と話した。
同神社や浦嶋さんらによると、元々の杉は、高さ約28メートル、幹周り約2・4メートルで、樹齢約160年。神社南側の境内の一角で、他の杉とともに神聖な森を形成していた。ところが2006年6月、何者かが、幹の根元付近の4ヵ所に、直径約3センチ、深さ約10センチの穴を開け、除草剤を注入する事件が起きた。
丹生宮司から「このままでは、杉は枯死してしまう」との、届出を受けた町教委からの依頼で、浦嶋さんが再生手術を実施。余分な水分の蒸散を防ぐため、幹の上部を伐採し、健康な枝々も、チェーンソーで次々と切り落とした。その後も杉は、生死の間をさまよい、そのたびに浦嶋さんらが、健康な枝も次々と切除するなど、丹念に手当てを施してきた。その甲斐あって、杉は5年後の今、見事に復活し、浦嶋さんは「もう大丈夫」と断言した。
今、杉は高さ約12メートルで、残された2本の枝に葉が青々と茂り、必死で陽光を浴び、風を感じ、雨水を吸収している。訪れる参詣者は「ほんとうに、よく、生き残ってくれた」「平凡な日常生活の幸せがわかる」「犯人がこの姿をみれば、天罰を感じることでしょう」と、口々に話している。浦嶋さんは「この杉は、人間でいうと壮年期です。今後、まだまだ力強く生きて、形はともかく、『元気』というものを感じさせてほしい」と話した。