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順教尼の口筆画入り着物や帯…旧萱野家で企画展

両腕のないハンデを克服、口に筆をくわえて書画を描き、社会福祉にも貢献した大石順教尼(じゅんきょうに=本名・よね=1888~1968年)ゆかりの和歌山県九度山町九度山1327の旧萱野家(大石順教尼の記念館)で、11月15日(金)~12月8日(日)、順教尼の口筆画入りの着物や帯などを披露する秋季特別企画展「順教尼のもう一つの世界」が開かれる。旧萱野家保存会役員の弦本真紀(つるもと・まき)さん(49)は「この着物や帯を拝見していますと、苦難な時代を生き抜いた順教尼の心が、ひしひしと伝わってきます」と、来館を呼び掛けている。入館無料。
九度山町教育委員会が主催、旧萱野家保存会が協賛する。
順教尼は大阪・道頓堀生まれ。17才の時、養父の狂乱により、両腕を切り落とされた。後にカナリアがくちばしでヒナにえさを与えている姿を見て、「両手がなくても、物事はできる」と悟り、書画の道を志望。
1933年に萱野正巳館長の祖父、萱野正之助・タツ夫妻が菩提親となり、高野山で出家得度した順教尼は、しばしば萱野家に逗留(とうりゅう)。京都・山科の可笑庵で80歳の生涯を閉じるまで、書画の道を究め、身体障がい者の社会復帰事業に尽くした。
今回展示されるのは着物2点、羽織1点、着物コート1点、帯5点の計9点で、それ以外に掛け軸2点も初公開される。
着物は、黒地に宮中の十二単(じゅうにひとえ)姿の女性や、御所車(ごしょぐるま)、菖蒲(しょうぶ)、桔梗(ききょう)、朝顔など18枚の色紙絵を染め抜いた「色紙ちらしの訪問着」、表から裏地の露草模様が透けて見える「黒の羅(うすもの)」、黒地に孔雀(くじゃく)の羽根をあしらった「孔雀の更紗(さらさ)の夏羽織」、紫地に花の刺繍(ししゅう)と雲模様入りの「着物の被布コート」、帯は朱色や紺、緑、黒の生地に、鯛(たい)や蓮(はす)などの金更紗の「名古屋帯」や「反物」などとなっている。
これらの着物や帯は、昭和初期から昭和40年代にかけて、順教尼が口筆で絵を描き、京都の染物屋などで仕上げた逸品ばかり。順教尼は出来上がった着物や帯を、世話になった人々に贈る一方、不倫の夫(日本書画家)と離婚後、男女2人の子供を養育するために、東京で着物や帯の行商に汗を流している。
今回は、高野山麓の旧萱野家などが、順教尼から譲り受け、保存していた着物や帯を展示し、これまで人々にあまり知られていなかった順教尼の世界を紹介することにした。
一方、掛け軸は、順教尼の一番弟子・大塚全教尼(おおつか・ぜんきょうに=1918~2007)が描いた柿の絵と、俳人・加賀千代女(かがの・ちよじょ)の「しぶかるか 知らねど柿の はつちぎり」という俳句の文字を、順教尼が口筆でしたためた〝コラボ作品〟や、順教尼が敬愛した「蝦蟇(がま)仙人と鉄幹和尚(てっかんおしょう)」(狩野永笑=かのう・えいしょう)」の仏画で、初めて飾ることにした。
弦本さんは「美しい色紙ちらしの訪問着や、順教尼が愛用していた被布コートなど、どれもこれも素敵です。そこに描かれた絵から、2人の子供のために、必死で生きた順教尼の気持ちが伝わってきます」と話した。
なお、常設展では順教尼・直筆の書画約40点を展示。場所は南海高野線・九度山駅から徒歩約7分。開館時間は午前10~午後4時半(入館は午後4時まで)。期間中の休館日は月曜日。問い合わせは同館(電話&ファックス=0736・54・2411)
写真(上)は順教尼の色紙ちらしを染め抜いた着物を披露する弦本さん。写真(中)は口筆で書画を描いた順教尼。写真(下)は加賀千代女の句を順教尼とその一番弟子・大塚全教尼が書画で仕上げた掛け軸。


更新日:2013年11月7日 木曜日 00:25

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